単細胞植物の成長、分化では、細胞壁微小管及び細胞壁ミクロフィブリルが重要な役割を果していることが知られている。しかし、多細胞植物の器官では、複雑さの故に不明な点が多い。そこで本研究では、蛍光抗体染色法を改良すること等によって高等植物の茎頂、茎、葉等で、細胞壁微小管及び細胞壁ミクロフィブリルの配列パタ-ンを器官全体にわたって明らかにすることを目的とした。さらに、成長を支配する光条件と微小管及び細胞壁ミクロフィブリルの配列との関係も併せて解析した。その結果得られた主な知見は以下のようであった。 (1)いくつかの植物の茎頂の微小管と細胞壁のミクロフィブリルを調べた。その結果、茎頂のド-ム状の成長パタ-ン、及び外衣構造の形成維持に微小管とミクロフィブリルの配列が関わっていることを示す結果が得られた。 (2)伸長生長するマカラスムギの幼葉鞘では内部組織は生長の原動力として積極的に伸長しようとする。一方、表皮は逆に内部組織とバランスをとるかのごとく縦方向への伸長を抑えるような力学的性質を示す。そこで、内部組織と表皮とで微小管と細胞壁ミクロフィブリルの配列を調べたところ、両者の配列がこのような力学的性質の違いに関わっていることを示す結果が得られた。 (3)単子葉と双子葉植物の葉の微小管と細胞壁ミクロフィブリルを調べたところ両者の配列が葉の成長パタ-ンの違いに関与していることを示す結果が得られた。 これらの知見から、器官内の組織分化や器官成長を考える場合組織毎の違いを十分考慮するという新たな視点の重要性が示されるとともに、高等植物の器官でも微小管と細胞壁ミクロフィブリルが成長パタ-ンにかなり普遍的に関わっていることが明らかになった。
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