研究概要 |
1.ニンジン細胞は適当な誘導物質(エリシタ-)が与えられたときにはイソクマリン骨格を持つファイトアレキシン,6-メトキシメレイン(6MM)を生成する。植物でのイソクマリン生成系は明らかでなかったが,エチレンまたはオリゴウロン酸でエリシタ-処理をしたニンジンの根の無細胞抽出物はアセチルCoAとマロニルCoAよりポリケタイドル-トを経て6-ヒドロキシメレイン(6HM)を生成し,それは更にメチル化されて6MMとなることを明らかにした。6HMの生成反応にはNADPHを必要とするが,部分精製した酵素を用い,この補酵素を与えない時に生ずる異常代謝物を調べた所,アセチルCoAと2分子のマロニルCoAが縮合した所で反応が停止していることがわかった。つまり6HMの3,4位の二重結合のNADPHによる還元はポリケタイド鎖の伸長の途中でおこることが確かめられた。 2.ニンジンは菌の感染の際6MMの外にキチナ-ゼ等を誘導生成する。ニンジンの培養細胞に糸状菌chaetomium globosumを接種し,生成したキチナ-ゼをゲル濾過法で分析すると、分子サイズの異なる少くとも7種のイソ酵素が見出された。これに対し同菌の培養濾液をエリシタ-として与えた場合は5種類の酵素が生成された。酵素反応の生産物を分析した結果からこれらの酵素はいずれもendo-型酵素と考えられる。菌の感染によってニンジンはエチレンを生じ,このエチレンは既報のようにエリシタ-となってキチナ-ゼを誘導する。しかし,そのキチナ-ゼの性質は糸状菌が誘導する酵素と明らかに異り,両者の作用は同一でないことが明らかになった。タバコ等では菌感染によってβ-1,3-グルカナ-ゼが誘導される。ニンジン細胞のβ-1,3-グルカナ-ゼは主として細胞壁に存在することがわかったが菌の感染によってほとんど影響をうけなかった。なお,同酵素はマンノ-スを含む糖鎖を有する糖蛋白であった。
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