ホウレンソウ葉緑体から、NADP光還元系の存在するチラコイド膜を単離し、これをさらにトリトンX-100の界面活性作用を利用して破壊し、光化学系I粒子を抽出液中に遊離させた。DEAE-トヨパールを用いるカラムクロマトグラフィーによって、遊離した光化学系I粒子を吸着して集め、さらに精製した。この精製法の特徴の一つは、葉緑体の調製からDEAE-トヨパールに至るまでの工程で使用するすべての溶液に1mMのフェリシアン化カリを加えたことである。この試薬の効果について検討した結果、葉緑体に存在するすべての還元性物質を酸化することによって、光合成電子伝達系における電子の移動を不可能にし、電子移動の結果引き起こされる光化学反応系の光失活現象を未然に防ぐことにあることを明らかにした。もう一つの特徴は、従来の精製法では多用されていた超遠心機による密度勾配遠心分画法を排除し、一般の蛋白質の精製におけるようにカラムクロマトグラフィーを用いて光化学系I粒子を精製したことである。これによって能率的で且つ経済的な精製が可能となった。この新しい精製法で精製した光化学系I粒子はいままでに精製されたものと違って、高いNADP光還元活性を示した。その構成ペプチドをSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって調べたところ、従来の方法による光化学系I粒子と比較して、数本の余分のポリペプチドが存在した。余分に存在するポリペプチドの一つは葉緑体におけるNADP光還元作用の最終反応を掌るフェレドキシン-NADP還元酵素であった。いままでの知見ではこの酵素はコネクテインとよぶ蛋白質によってチラコイド膜表面に結合して存在することがわかっているから、この酵素の光化学系I粒子における存在が事実であるとすると、葉緑体のNADP光還元作用の解明に新しい問題をなげかけるものとなる。
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