葉緑体チラコイド膜には高分子量型フェレドキシン-NADP還元酵素(FNR-L)と低分子量型FNR(FNR-S)とが存在する。低塩条件で1時間の抽出をすると、全量の3分の1のFNRが抽出され、また、FNR-Lのほとんどが除去される。したがって、FNR-Lは膜表面に存在するFNRであると考えられる。チラコイド膜の1時間抽出処理によってFNR-Lを除去するとNADP光還元活性が減少するがFNR-Lを再結合すると活性は著しく回復した。しかし、FNR-Sを再結合しても、わずかしか回復せず、このFNRは膜表面のNADP光還元には関与しないと考えられる。後述するFNR-Sの実験結果と合せ考察すると、チラコイド膜表面にあってNADP光還元に関与するFNRはFNR-Lであり、このFNRは膜表面に想定されるベ-ス蛋白質に結合し、NADP還元酵素複合体と呼ぶべき蛋白質集団を形成していると結論できる。 次に、チラコイド膜内部に存在するFNR-Sについて調べた。ホウレンソウチラコイド膜ではFNR-Lの抽出後もNADP光還元活性が観察されるので、膜内に結合するFNR-Sもまた、NADP光還元に関与しているように思われるが、オオムギ芽生えの緑化途上のチラコイド膜では膜内に結合するFNR-SはNADP光還元に関与しないことを見出した。ホウレンソウチラコイド膜におけるFNR-SによるNADP光還元はチラコイド膜の損傷によってNADPが膜内に侵入し、FNRと接触できるようになったことによるものと考えられる。FNR-Sの局在場所は光化学系I粒子であることをつきとめたが、現在の知見では、このFNRは循環的電子伝達系を構成し、プラストキノンの還元に関与している可能性が強い。
|