単細胞緑藻のクラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)においては、体細胞分裂によって生じた遊走子がハッチする時や、雌雄配偶子が有性生殖過程において融合する時に、プロテア-ゼ性の細胞壁溶解酵素が分泌され、母細胞壁や配偶子の細胞壁が溶解される。研究代表者らは、これまで2年間に亘り、それぞれハッチングエンザイム(HE)およびリティックエンザイム(LE)と名付けたこれら2種類の細胞壁溶解酵素を精製し、分子特性を明らかにしていくとともに、細胞周期や配偶子分化におけるこれらの酵素の動的変化や、分泌制御機構を追究してきた。得られた成果は、以下のようにまとめられる。 1.両酵素の分子特性:HEは、分子量約12万の糖蛋白質で、セリンプロテア-ゼとしての特徴を備えている。母細胞壁のみを溶解し栄養細胞や配偶子の細胞壁は溶解しない。一方、LEは、分子量約6.2万の糖蛋白質で、金属プロテア-ゼである。母細胞壁および栄養細胞や配偶子の細胞壁を溶解する。種々の配列既知のモデルペプチドを基質とした時、HEは、ArgまたはLysの塩基性アミノ酸のカルボキシル側を切断する。一方、LEは、2つの連続する疎水性アミノ酸の間を特異的に切断する。このように、HEとLEは、全く異種のプロテア-ゼである。LEについては、N末端の部分アミノ酸配列も決定した。 2.酵素のダイナミクス:LEは、栄養細胞中にも不活性型で存在し、配偶子分化の過程で少なくとも一部は活性型に変わる。脱分化の過程でまた不活性型に戻る。HEのほうは、遊走子放出直前の成熟した分裂細胞内にも活性が認められず、プロ型酵素の存在が示唆された。一方、分裂細胞内には、HEに特異的なプロテア-ゼインヒビタ-が存在することを見出し、その分子特性、出現時期、存在場所などを明らかにした。
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