植物ホルモンの一つであるオーキシンは、植物の様々な生理現象に関与しておりきわめて重要な生理活性物質である。本研究課題は、エンドウ芽生えより得られたオーキシン特異遺伝子のcDNAクローンを用いて、その発現とアグロバクテリウム感染の相関を調べる目的で行なわれ以下の結果が得られた。 1.アグロバクテリウム、トゥメファシエンスおよびA.リゾジェネスの11種の菌株をエンドウ芽生えの第3節間に感染させ腫瘍の形成を3週間にわたって観察した。その結果、Tiまたは、Riプラスミド上のIAA合成に関与する遺伝子領域を欠落したもの、もしくは、その領域にトランスポゾンが挿入された菌株は、腫瘍形成能力をもたないことが明らかになった。 2.腫瘍を形成するものは、その成育に伴ってRNA量も増加する。 3.オーキシンによる特異的に誘導されるmRNA(pIAA4/5)は、菌の接種に無関係に接種後1日目にわずかに増加する。これは、傷害の影響と思われる。 4.その後、このmRNAは腫瘍の成長とともに増加するが、1週間後あたりを頂点に減少して行く。 以上のことから、アグロバクテリウムのエンドウ胚軸への感染による腫瘍の形成には、バクテリアプラスミドの発現によるIAA合成が必須であり、しかも、ここで生成されるIAAが宿主であるエンドウのIAA特異遺伝子の発現を促進することが明白になった。しかし、この遺伝子の発現は、形態的に腫瘍が大きくなる時には低下していることから、腫瘍形成の初期において何らかの役割を果すものと思われる。今後、この遺伝子が、どのようなタンパク質をコードし、どのような働きをもっているのかを明らかにして行くことが必要である。
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