最終年度である本年度は前年度に引き続き津軽十二湖湖沼群内の7湖沼の環境分析と植物性プランクトン、特に、ボルボックス科藻類の優占種に着目してその季節的変遷を定量的に調査した。さらにヘマトコッカスの室内培養系における実験によって、その生活環における栄養要求と制御因子解析を行った。 1.ボルボックス科藻類での優占種はVolvox aureusとEudorina elegansであった。V.aureusは1湖沼で夏期にE.elegansは多くの湖沼で夏から秋・冬期にかけて優先し春期にはみられなかった。生育深度はV.aureusが表層なのにくらべE.elegansは比較的深い酸素量と光量のとぼしい10m層まで広く分布していた。 2.各湖沼の周年にわたる水温、透明度、pH、溶存酸素量の変動、生物現存量としての各種クロロフィル量、糖、タンパク量の変動および湖沼水中の全窒素、アンモニア態、硝酸態とよび亜硝酸態窒素、全リン酸、無機リン、ケイ酸および塩素等の定量分析を行ってきた。 3.天然水界に対して比較するために、ヘマトコッカス、ゴニウム等の培養実験により、増殖におよぼす窒素源の要求、糖の利用ならびに耐性体形成、性発現制御に関する要因解析を行った。 以上の結果から、天然湖沼でのボルボックス科藻類の出現は環境中に栄養塩、特に窒素源が少なくなる夏から冬期であり、ケイ藻等は比較的栄養塩の多い春に集中した。所が培養実験での窒素は天然に比べ数百倍から数千倍の濃度を要求していた。増殖だけではなく生活環の耐性体形成や有性生殖の制御要因である窒素源の欠乏は天然で一時期をのぞいて周年おこっていることになる。自然界で示すこれら藻類の生活環制御因子と培養系で関与する制御因子とは相当異なっている可能性が明らかになった。
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