ヒヨドリバナ属は北米東部と東アジアに隔離分布するキク科植物である。本属の2倍体種は10対の形態的に分化した体細胞染色体を持ち、細胞遺伝学的には2倍体と考えられる。10という半数体染色体数はキク科ヒヨドリバナ連の多くの属にみられ、ヒヨドリバナ連の染色体基本数と考えられてきた。ところが昭和63年度までの研究において、本属の2倍体種が著しい遺伝子重複を持つことが示唆され、平成元年度は東アジア産・北アメリカ産の多数の種についての調査を行ない、遺伝子重複の一般性を確めた。また葉緑体アイソザイムと細胞質ゾルアイソザイムを分画し、遺伝子重複が局在部位の異なるアイソザイム遺伝子の双方に起きていることを確認した。その結果、北米産・東アジア産の種を通じて、アルコ-ル脱水素酵素、フルクト-ス1、6ニリン酸アルドラ-ゼ、NADP依存イソクエン酸脱水素酵素、フォスフォグルコムタ-ゼ、フォスフォグルコ-スイソメラ-ゼ、6フォスフォグルコン酸脱水素酵素、シキミ酸脱水素酵素の計7酵素種について遺伝子重複に由来すると考えられるアイソザイムの発現が認められた。この結果はヒヨドリバナ属(およびヒヨドリバナ連全体)が倍数体起原であることを示唆している。最近葉緑体DNAの制限酵素断片長多型を用いた研究によってヒヨドリバナ連はメナモミ連から派生したことが明らかにされた。そこで、メナモミ連の染色体数を調査したところ、多くの属で10よりも大きい基本数が見られることが明らかになった。ヒヨドリバナ連のn=10という半数体染色体数はより大きな数からの減数の結果である可能性がある。現在この仮説をテストするために、葉緑体DNAを用いた系統解析に着手している。
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