沖縄県から千葉県にかけて41地域のミズワラビを調査し、108集団についてサンプリングを行なった。現在までに、29地域74集団について、各株の最大裸葉と最大実葉の葉長、中軸分岐数、分岐回数のチェックを終了した。その結果、北方の集団ほど株は著しく小型となり、葉の分岐も少ないことが明確となった。例えば沖縄県内の標準集団と千葉県内の標準集団を比べてみると、最大実葉の平均葉長は前者が24.1cmに対して後者は2.3cm、平均中軸分岐数は前者が15.7に対して後者は0.7、平均分岐回数は前者が3.6回に対して後者は0.4回である。栽培実験の結果、北方のミズワラビは南方のそれと比べて幼葉形成から実葉形成に至るまでの成育期間も著しく短いことが判明した。南から北に向って見られるこのような形態の小型化・単純化と成育期間の短縮化は、各地域におけるイネの刈取り期から降霜期までの(ミズワラビの一般的成育期間)の長短をよく対応していることが明らかとなった。 予備実験として、沖縄県産と千葉県産のミズワラビの交配実験を行ない、雑種を得た。それらはさかんに胞子を形成したが、その発芽率はいずれも1%以下であった。このことは、南方と北方のミズワラビが形態面だけでなく遺伝的にも大きく分化していることを示唆しており、ミズワラビの地理的変異を考える上で重要なヒントとなる。 上記の作業と併行して、千葉県の集団について各種酵素の電気泳動分析を行ない、それに基いて自然下における自配受精率を算定することを試みた。現在のところ4集団について分析を終了したが、自配受精率は予想どおり高い。すなわち、PGエアロザイム分析からは平均0.837、IDHアロザイム分析からは平均0.891という高い自配受精率が算定された。換言すれば、ミズワラビの場合、自然下では80%以上の胞子体が自配受精によって生じていることになる。
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