研究概要 |
昨年度後半から今年度にかけて、ミズワラビ集団のアロザイム組成比較を重点的に行なった。具体的には、沖縄県から千葉県に至る太平洋岸地域の集団を対象に、PGI(フォスフォグルコ-スイソメラ-ゼ)、IDH(イソシトレ-トデヒドロゲナ-ゼ)、PGM-1(フォスフォグルコ-スミュタ-ゼ)、PGM-2、LAP(ロイシンアミノペプチタ-ゼ)、SkDH(シキメ-トデヒドロゲナ-ゼ)の5酵素のアロザイム組成を調査した。調査にあたっては、各集団から5個体をランダムに選び、その胞子を散布し、生じた配偶体全体のアロザイム組成を調べる方法をとった。おおよそ20地域20集団を調査すればアロザイム組成の地理的変異の比較は可能であろうと思われるが、現在までのところ、16地域16集団について調査を完了し、6地域6集団について調査を継続している最中である。これまでに得た16地域16集団の調査結果から、アロザイム組成は沖縄本島で大きく変ることが判明した。それは特にPGI、LAP、SkDHのアロザイム組成に顕著に認められる。すなわち、PGIではa、a'(null)、b、bの3アロザイムが認められるが、沖縄本島の中央部を境として、それ以南の集団(計4集団)はaのみをもち、それ以北の集団(計12集団)はa,a',bのどれか2つを併せもつ。LAPではa,b,b'の3アロザイムが認められるが、沖縄本島以南の集団はaのみをもち、以北の集団はbかb'のみをもつ。また、SkDHではa、b'(null)の3アロザイムが認められるが、沖縄本島以南の集団ではaのみをもち、以北の集団ではbかb'のみをもつ。一昨年度に重点的に行なった形態的変異の比較から、南方の集団と北方の集団は遺伝的に異なっており、その境界は沖縄本島から奄美大島あたりにあるだろうとの予測が得られている。今回の調査結果はこれを更に明確に示すものであり、ミズワラビ集団の地理的分化を考える上で重要なデ-タとなる。
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