本助成金の申請に当って、3年間で明らかにしたいと考えたことのひとつは、沖縄地方から関東地方にかけて、ミズワラビ集団のアロザイム組成はどのような地理的変異を示すか、ということであった。最終年度である本年度の前半は、そのうち特にデ-タの不足している紀伊地方と中部地方の集団についてアロザイム組成を調べ、デ-タの補充を行なった。具体的には、和歌山県白浜町、三重県海山町、同県嬉野町、岐阜県羽島市、愛知県安成市、同県豊橋市の集団について、他の地域の集団と同様にAAT、IDH、LAP、PGI、PGM、SKDH、TPIの7酵素のアロザイム解析を行なった。その結果を含めると、結局この3年間で、沖縄地方から関東地方に至る太平洋沿岸地域の22集団について、アロザイム組成を明らかにすることができたことになる。それによって得られた最大の知見は、日本のミズワラビは沖縄本島を境にしてアロザイム組成が大きく異なるということである。すなわち沖縄本島以南のものをかりに南方型、それ以北のものをかりに北方型と呼ぶと、南方型は同質倍数体起源のアロザイム組成を示すのに対し、北方型は異質倍数体起源のアロザイム組成を示す。この結果を、これまでに得たミズワラビの葉形の地理的変異と関連させて考察すれば、次のようになる。ミズワラビは南から北にかけて葉は小型化し、切れこみは減少する。この北方における葉形の小型化、単純化は、わずかな栄養出長量で実葉形成が行なえるような遺伝的変異にもとづいており、北方の水稲耕作様式に対応して生じた適応型とみなせる。この遺伝的変異は、いくつかの事実から判断すると、北方型に広く共通したもののようである。したがって、北方の地域間に認められる葉形変異は基本的には可塑性にもとづくものであろう。 本年度の後半に、以上の知見を50頁ほどの実績報告書としてまとめ、出版した。
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