骨格筋におけるTroponin T isoformの発現様式はこれが組織特異的であることとIsoformの種類が多いことにより多くの注目を集めている。ニワトリ胸筋の発生においては、先ず肢の筋肉に見つけられるLタイプが出現し、次に新生期に特徴的なBN、ヒヨコに特徴的なBC、成鶏に特徴的なBAへと遷移していく。しかもこの中に見られる多数のIsoformの総量が発生過程においてTroponinの他のSubunitであるTroponin I及びTroponin Cの量と同調的に蓄積される。先ず、抗速筋Troponin T抗体と抗遅筋Troponin T抗体を用いてニワトリの23種類の筋肉の二次元電気泳動パタ-ンを調べた。その結果、Bのみ(BA又はBC、BN)を持つ筋肉、BとLを持つ筋肉、Lのみを持つ筋肉、Lと遅筋タイプのTroponin TであるSを持つ筋肉、さらにSのみを持つ筋肉、の5種類があることがわかり、SとBを同時に持つ筋肉はなかった。これらの筋肉の中でも翼筋は胸筋に似たTroponin T isoformのパタ-ンを示したため、これを胸筋の発生におけるパタ-ンと比較してみた。その結果、翼筋におけるTroponin T isoformの発現様式は胸筋のそれより発生段階的に遅れた発現様式を示したものの、互いに非常によく類似していた。 この発現能力がニワトリの体の場所によって規定されているかどうかを知るために、筋肉の同一個体異所移植を行なった。孵化後2日目のヒヨコの大胸筋を切り出し、同一個体の肢に移植し、50日目にこの移植片を取り出し、分析した結果、BタイプのTroponin T isoformが検出された。従って、このような再生過程を経過した後においても胸筋の細胞はBタイプIsoformを発現させる能力を持ち、この能力は神経や体の場所によって規定されるのではなく、特定の細胞系列において決定づけられているものと考えられた。
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