まず哺乳類精奨蛋白の精製法について検討した結果、イオン交換ゲルクロマトグラフィーの後、硫安分画を行なうことでより簡便に蛋白の精製が可能になった。精製された精奨蛋白は、三つのサブユニットからなるが、鞭毛運動阻害効果を保持したままで、さらにサブユニットを分離するにはまだ至っていない。またモノクローナル抗体の調整に関しては、各々のサブユニット特異的な抗体はまだ得られておらず、得られた抗体は多少の強弱はあるが、すべてのサブユニットに反応する。このことは、サブユニットに共通な糖に反応している可能性が高いので、今後検討する予定である。細胞膜除去モデルを用いての鞭毛運動機構の解析では、この精奨蛋白は鞭毛運動を強く阻害すること、またこの蛋白の高濃度存在下で、ほとんど運動が阻害されているように見える状態でも、なお鞭毛の屈曲が伝播し、その速度はきわめて遅いことが観察された。この低速度屈曲伝播においては、屈曲部分の長さ、屈曲角、曲率がほぼ一定であり、屈曲と屈曲間の直線部分の長さが伸びていくこがわかった。この知見は、鞭毛屈曲伝播の制御機構を考える上においてきわめて重要であると思われる。さらに様々に条件を変えて屈曲伝播様式を検討する予定である。ところでトリプシンで処理した鞭毛で見られる、ATP依存性のダプレット微小管の滑り出しについても調べたが、精奨蛋白はこの運動も、同様に阻害することがわかった。 一方、高分子量のポリアミノ酸によっても、精奨蛋白と類似した鞭毛運動阻害現象が見られた。塩基性、かつ分子量15K以上のものでその阻害効果が大きく、特にポリリジンは強い阻害効果を示した。比較的低濃度では、鞭毛運動の振動数はあまり変化せず、屈曲角が減少する。また運動停止が見られる濃度でも、ATPase活性の阻害はほとんど見られず、その作用機作については、精奨蛋白と比較検討中である。
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