スルメイカ網膜から分離精製された水溶性のレチナール結合蛋白質(RALBP)は、膜蛋白質として視細胞外節に存在するロドプシン(Rh)の光産物であるメタメロドプシンおよび、内節に存在するレチノクロム(Ret)の光産物であるメタレチノクロムとの間で、互のレチナールを交換することによって、それらをもとの色素に再生させることがin Vitroの実験で明らかになった。さらに眼杯を用いるin Vivoの実験によって、RALBPが視細胞内を内外節にわたって移動し、両色素と共にレチナールの再利用系を形成し、その有効な需給に貢献していることがわかった。RALBPが視細胞内に存在することは、暗順応させたイカ網膜の電顕用超薄切片に、RALBPに対する抗体を適用する金コロイドラベル法によって、その局在を検討した結果、RALBPが視細胞外節基端部の微絨毛膜および、内節のミエロイド小体膜に、RhおよびRetの分布と密接に関連して存在していることによって確かめられた(臼倉治郎氏の協力)。 ところでRALBPはレチナールと同様、レチノールもリガンドとすることができ、また網膜には、視細胞の内外節の境界付近に血管が分布していることから、視細胞と血液との間のレチノイドの流れが示唆されていた。今回、血液のレチノイド組成を調べたところ、11シス型レチノールが大部分を占め、他は殆んど検出されなかった。この11シス型レチノールがRhの発色団となるには、異性化の必要はなく、脱水素酵素によってレチナールに酸化されればよい。11シス型レチノールをリガンドとするRALBPを用意し、これを網膜の膜分画と混合して暗保したところ、リガンドはレチナールに変化した。全トランス型を持つRALBPの場合には何の変化もみられなかった。従って網膜の膜分画中には11シス型レチノールに特異的で、RALBPを基質とする脱水素酵素の存在が明らかとなり、視物質の再生・維持に関する血液の役割が注目されるに至った。
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