研究概要 |
スルメイカの網膜に見いだされたレチナ-ル結合蛋白質(RALBP)は、視細胞外節に存在するロドプシンの光産物であるメタロドプシンおよび内節に存在するレチノクロムの光産物であるメタレチノクロムとの間で互いのレチナ-ルを交換し、もとの色素を再生させ得る事がin vitroの実験によって示された。これに立脚して、本課題では、より生体に近い条件での実験に重点をおき、RALBPの視細胞内移動を証明して、軟体動物における視覚の維持に本質的なロドプシン・レチノクロム系の実態を確立し、さらに感光性色素再生に伴うレチナ-ル交換の物理化学的機構やその代謝の解明をめざして、下記の項目を中心に研究を進めた。 (1)RALBP局在に関する免疫組織化学的検討:RALBP抗体を適用する間接金コロイドラベル法によって、RALBPは外節の細胞質のコア、即ち微絨毛の基端部、内節のミエロイド小体に局在することが示された。 (2)眼杯における感光性色素の再生とRALBP:眼杯を用い、照射とそれに続く暗保時におけるRALBPの動態を調べた。RALBPはレチナ-ルの11-シス型をミエロイド小体から感桿微絨毛へ、全トランス型を逆方向に運搬して、色素の再生とレチナ-ルの反復利用を実現させている。 (3)メタ色素・RALBP間でのレチナ-ル交換機構:この機構を解明するため、cDNAによるRALBPの構造決定に続いて、レチノクロムの構造決定を行った。アミノ酸残基は301個、分子量は33,490で、視物質と同様に7本のα-ヘリックスが膜を貫いている可能性が示された。 (4)網膜における脱水素酵素:血中には11-シス型レチノ-ルが多いが、それを持つRALBPを基質とする脱水素酵素の活性が網膜の膜分画に見つかった。組織切片の活性を測定する方法により、この分布がミエロイド小体のそれと一致することが分かり、この酵素がレチノクロム系と関連して機能し、視物質の再生・維持に係わることが示唆された。
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