本年度の研究補助金は、全て消耗品に使用し、下記のような成果を得た。ミサキマメイタボヤやアラレボヤの芽体は切断刺激をシグナルとして発生を開始するが、切断面を中心に時間的空間的に統合されたやり方で形態形成が進行する。形態形成中心では幹細胞のブラスト化と上皮形成が常に認められ、それらは、種々の細胞に貯えられた整理活性因子によって誘導されるらしい。我々は、その因子の一つとして、ガラクト-ス認識C型レクチン(TC-14)を分離精製することに成功した(Suzuki et al.、1990)。TC-14は出芽特異的に誘導されるタンパクであることが免疫組織学的に明らかとなったが、抗原の分布は形態形成中心に局在しなかった(Kawamura and Nakauchi、投稿中)。一方、切断刺激は切断面の上皮細胞によるTC-14の脱顆粒を誘導し、それが間充織空間で網状のマトリックスを形成した。血球系幹細胞の凝集・上皮化はこのマトリックスを足場に進行するらしい。すなわちホヤ芽体の固体性確立は、脱顆粒の時間的空間的制御としての局面を持つことが判明した。 局所的脱顆粒を誘導するシグナルが炎症メディエ-タ-として知られるアラキドン酸代謝産物ではないかと考え、プロスタグランディン(PG)の特異的合成阻害剤であるインドメタシンで芽体を処理した。有効最低濃度400nMで幹細胞の分裂、凝集・上皮化、形態形成の全てが停止した(Kawamura and Nakauchi、投稿準備中)。この時TC-14の脱顆粒も抑制されていた。この芽体にPGE_2を与えると分裂が部分的に回復し、PGF_<2α>では血球の上皮化が回復した。興味深いことに、この時TC-14の脱顆粒が起きており、間充織空間にはECMが形成されていた。これらの結果は、ホヤ芽体の形態形成中心の決定が、生理活性因子、例えばTC-14、の脱顆粒と深い係わりをもっており、その脱顆粒がアラキドン酸カスケ-ドによって時間的空間的に制御されていることを強く示唆した。
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