研究概要 |
本年度の研究補助金は,全て消耗品に使用し,下記のような成果を得た。体壁出芽によって形成されたミサキマメイタボヤ芽体の形態形成中心では,全能性幹細胞であるヘモブラストが上皮に転換し形態形成に必要な未分化細胞を補給している。このヘモブラストの動態を調節していると思われる因子の同定と作用機作の解明をin vivo,in vitroで試みた。TCー14はミサキマメイタボヤで最初に単離・精製・構造決定に成功した,分子量14kダルトンのカルシウム依存性ガラクト-ス認識レクチンである。抗TCー14ポリクロ-ナル抗体の存在下で芽体を発生させると,ヘモブラスト同士の接着は起こるが,複数の小さい細胞塊が点在し,それらは仮足を出さず,また上皮に向かって凝集しなかった。TCー14をビオチンで標識し,レクチンの標的細胞を調べたところ,ヘモブラストの細胞膜が反応した。これらの結果は,昨年度の免疫組織化学の結果と合わせて,ヘモブラストの凝集・上皮化がTCー14陽性細胞外マトリックス(ECM)を足場に進行することを強く支持している。TCー14の標的分子としてのガラクト-ス含有糖蛋白(GP)を,ウエスタンブロッティング法を応用して調べた。還元条件のSDSーPAGEで90kDaと20kDaのバンドがTCー14と親和性をもっていた。後者は64kDa機能蛋白のサブユニットであり,その精製に成功した。TCー14とGPー64をin vitroでヘモブラストに作用させ,生理機能を調べたところ,GPー64は細胞増殖促進効果を持つことが判明した。一方,TCー14は顕著な増殖抑制効果があり,ヘモブラストは未分化状態を維持した。この結果は,形態形成中心におけるTCー14とGPー64の分子間相互作用が,全能性幹細胞の機能発現に深く関わっていることを示唆しており,未分化性の分子的実体を知る手がかりが与えられた。また,本研究成果は幹細胞の培養系確立に道を開いたという意味で,今後の研究が大いに期待される。
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