本研究は、カイコ外皮タンパク質生合成系をモデル系として昆虫変態の分子機構を解明することを目的とした。本年度の研究成果は以下のとおりである。 1.カイコ5令中期幼虫の外皮タンパク質(LCP)に対する抗体を用いたイムノブロット法によりカイコ発生にともなうLCPの発現を追跡した。LCPは孵化後10時間以後に合成が開始され、幼虫期を通じて外皮中に存在するが、蛹化とともに消失した。一方、蛹外皮タンパク質(PCP)は幼虫期には全く存在せず、蛹期にのみ検出された。 2.5令脱皮期の表皮細胞mRNAよりλgtllをベクタ-としてcDNAライブラソ-を作成し、これを抗LCP抗体でスクリ-ニングしてLCP-cDNAクロ-ンを得た。LCP-cDNAをプロ-ブとしたRNAブロット解析の結果、LCP-mRNAは5令3日目まで存在し以後消失することが判明した。この時期は体液中の幼若ホルモンの消失時期に一致していた。 3.PCP-cDNAより推定されたアミノ酸配列にはAla、Proに富む8残基の親水性反復配列(Motif-B)の他に、疎水性アミノ酸の多い13-15残基の配列(Motif-A)がPCPのN端近傍、中央部、C端近傍の3箇所に発見された。 4.Motif-AおよびBがPCPのキチン結合性に関与いている可能性を調べるため、この領域を含むβ-ガラクトシダ-ゼ/PCP融合タンパク質を大腸菌内で合成し、キチン親和性について解析した結果、大腸菌がβ-ガラクトシダ-ゼ自体はキチン・カラムに吸着されないが、β-ガラクトシダ-ゼ/PCP融合タンパク質は選択的にキチンに吸着することが判明した。この事実よりMotif-AおよびBのいずれか、あるいは両者がキチン結合に重要な役割をもつことが推察された。
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