トンボ類は不完全変態であり、若虫の時期は水棲で成虫になると陸生である。若虫の複眼は大きく二つの部域、XとYにわけられる。X部域は小さな未発達の原基として背側についており、この部分は成虫では複眼の背側部分に大きく発達する。Y部域はX部域を除く複眼の部分であり若虫の複眼の大部分を占め、又若虫の時期に機能している部分であり、成虫では複眼の腹側になる。今回の研究ではクロスジギンヤンマの終齢の若虫を用いて、特にXとY部域について形態学的、電気生理学的および生化学的方法で研究を行い、両部域の比較をおこなった。 光顕および電顕による比較形態学的研究により、X部域にも小さいながら個眼の構造が存在し、視細胞の長さはY部域のそれに比較して約1/4であった。また光受容膜のラブド-ムはほんの少しだけ形成されており、フリ-ズフラクチャ-法によるラブド-ムの膜内粒子の密度も1μ^2当たり500でYのそれの約半分であった。X部域の視細胞内には多くの油滴がふくまれているのが特徴的である。高速液体クロマトグラフィ-法による視物質発色団の定性、定量の結果、X部域からはレチナ-ルのみが極く微量、Y部域からは30Hーレチナ-ルが約3/4、レチナ-ルが約1/4の比で検出された。 電気生理学的研究ではERG法により刺激強度反応曲線を記録した。そのけっか、X部域からもわずかながら電気的応答を記録することができた。しかし、その感度はY部域の視細胞と比較すると1/1800と極めて低いものであった。 以上のことから、ラブド-ム膜の量、視物質クロモフォアの量、および電気的応答との間には深い相関関係があることが分かった。
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