研究概要 |
動物がからだの内部環境を維持できるのは、上皮細胞の膜の選択的透過性、およびそれらの細胞の間隙をふさぐ不透過結合の存在による。しかしこの不透過結合は、ただ細胞間隙を通っての分子の透過を阻止するだけでなく、環境条件によっては、開閉することがある。 本研究では、ヒトデ類の幼生を用いて、無脊椎動物の上皮細胞間結合構造であるセプテ-ト結合に関して、その生理的な開閉現象の記述と、その機構の解析を行った。 以下に、本研究によって得られた知見を整理する。 1)セプテ-ト結合を開閉させる条件:(1)イオンや有機低分子(NaCl,KCl、尿素、グリシン、アラビノ-スなど:0.3M)により高調にした海水、(2)Ca^<++>またはMg^<++>一欠如海水、またはクエン酸ナトリウム(0.1M)を加えた海水、(3)冷却海水(0℃)、にそれぞれ幼生を約15分間さらす、(4)細胞内エネルギ-の枯渇状態下で10〜30分間、(5)膜電位の低下(+0.1M KCl,+0.2mMウアバイン)、(6)細胞内cAMP濃度の上昇(+10mMテオフィリン、10〜30分処理)。 2)結合開放時の超微形態:相接する細胞膜を結び付ける構造である隔壁構造が消失するが、結合領域の細胞間隙は広がらない。 3)結合の開閉機構:(1)セプテ-ト結合は、平常時は、エネルギ-を消費して積極的に閉じられている、また(2)閉じた状態の維持には、二価陽イオンが不可欠である、(3)開閉の制御は、主として膜電位の上昇を介して行われる、(4)この制御の過程に、細胞内cAMPが関与している可能性がある、また(5)細胞骨格系は、関与していないと考えられる。 4)応用技術:以上の現象を利用して、無脊椎動物の胚や幼生の胞胚腔内に各種酵素や特異抗原を導入し、生きたままの状態で、細胞外マトリクスや間充織細胞の働きを研究できる方法を開発した。
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