研究概要 |
カワスズメ類のアサドスズメダイ(Pomacentrus lepidogenys),デバスズメダイ(Chromls viridis)などにおける緑色系の皮膚呈色は,黄色を主体とする地色に虹色素胞内の反射小板堆の非理想型薄膜干渉現象に由来する顕微鏡的青色スポットが点描的に存在することによって生じることを示し得た。この現象は動物皮膚色の発現機構としてこれまで知られているものとは異なる,全く新しいタイプのものの記載である。さらに,主として組織学的手法による網膜視細胞の分布・配置の観察から,側眼の分解能の解析を行ない,ほぼ2cm以上の距離では一様な色彩として別個体を認識することが明らかにした。タナゴ類の魚種(タナゴ亜科,Acheilognathinae)には体側の緑色縦帯がある種が多い。主としてタイリクバラタナゴ(Rhodeus ocellatus ocellatus)を使い,この呈色に虹色素胞が主導的役割を果していることを示した。この帯は個体と同じレベルから観察すると反射率の高い金色を呈するが,仰角・俯角の増加に伴い色調が緑から青へと変化する。虹色素胞内の反射小板堆による重層薄膜干渉と規則性に乏しい配列の小板による光散乱が協働的に係わっていることが組織学的観察と光反射特性の解析から明らかとなった。微妙な呈色に真皮膚の黒色素胞が役立っているが,この部分の黒色素胞,虹色素胞はともに細胞運動性を示さない。バラタナゴは群れを平面的に形成することが多く,しかも格子状のパタ-ンを維持する傾向が強い,薄明下では群れ形成がみられない,以上から,群れの形成・維持には,側線系により乱流感知よりも,視覚情報が重要であることと結論された。縦帯色は積極的には変化しないので,種内個体間のコミュニケ-ションに利用されている可能性は低いが,群れに関する社会行動の有効な信号となっているものと推論される。
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