魚類色素胞膜にはさまざまホルモンや神経伝達物質の受容体が存在する。1次メッセンジャ-が、これら受容体に結合した後、細胞内ではどのような情報伝達系が作動するのだろうか。今までの研究の成果として、サイクリックAMPが2次メッセンジャ-の1つであり、アデニレ-トサイクレ-スの活性化や不活性化にはGタンパク質が関与することが示唆されている。それに加えて本研究では、Ca^<2+>やイノシト-ルミリン酸(IP_3)も2次メッセンジャ-であることを見い出した。すなわち、交感神経伝達物質であるノルエピネフリン(NE)を作用させると、細胞内の遊離力ルシウム量が増大し、色素顆粒の凝集に至ることが判明した。また、あらかじめ膜の透過性を高める処理をした培養色素胞にIP_3を投与すると、顆粒凝集が誘起された。おそらく、IP_3は細胞内のカルシウム貯蔵部位(膜直下のピノサイト-シス小胞や、滑面小胞体と予想され、電顕観察にて多数見い出されている)からCa^<2+>の放出をうながすのであろう。しかし、膜のカルシウムチャンネルを介してのCa^<2+>流入の可能性も全く否定できない。ただ、黒色素胞に関する限り、外液中のCa^<2+>の存在は顆粒凝集に必要ないことは確認している。細胞内遊離Ca^<2+>はカルモジュリンに結合し、活性化されたカルモジュリンはフォスフォジエステレ-ス等の酵素活性を高めるものと思われる。Wー7によってカルモジュリン(活性型)の作用を阻害すると、顆粒凝集も大きく抑制されるものの、多少の凝集は起きる。従って、色素胞の顆粒凝集においてはcAMPとCa^<2+>(またはIP_3)のそれぞれが関与する二つの情報伝達系が同時に作動していると考えられ、実際、アドレナリン受容体α型の亜型を調べると、α_2型がドミナントではあるが、α_1型も3割程度存在することが示唆された。顆粒凝集過程はエネルギ-を必要とすること、おそらくダイニンーチュ-ブリン系であることを裏付ける結果も得られている。
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