コブコケムシの一種、Pseudocelleporinatriplexの幼生形態を透過型及び走査型電子顕微鏡で観察した結果、以下のことが判明した。(1)ドーナツ型の芽体が頂盤の下部に存在する。(2)多量の腺細胞を伴った大型の梨子状器官が口側陥入溝の奥深く存在する。(3)巨大な内のうが幼生後部内部を占める。(4)内のう頸部にアズールIIに濃染する分泌細胞塊が存在する。以上の点から、この幼生はBugulaの幼生とほぼ類似していることがわかった。 この種が海藻のヨレモクに特異的に付着することから考えて、大きな梨子状器官とそれに伴う大形腺細胞塊は、最適付着部位の探索及び付着時に海藻表面上をととのえる役に立つと考えられる。その他二種のコブコケムシ、Celleporina SP1とC.sp2の幼生も多くの腺細胞を伴った梨子状器官を有していたことから、海藻上への付着は多量の粘液分泌を必要とすることが示唆される。すなわち、大型の梨子状器官は適応形質であり派生形質であると結論できる。このことはあと数種のコブコケムシ幼生を用いて確かめる必要がある。 付着幼生の変態に関しては、P.triplexはこれまで知られている種とは全く異なっていた。ただし、初虫虫室壁が反転した内のうによってほとんどできるが、ほんの一部に外套上皮由来の部分が残る点、Watersipora型に近いと考えることができる。もしそうなら、この形質そのものが有のう苔虫類の派生形質と見なすことが可能である。一方、その他の変態形質に他苔虫との類似がほとんど見られなかった点は、P.triplexが三室性初虫を作る特種な種であることに原因すると思われる。今後は他のコブコケムシとの比較を通じてP.triplexの変態過程が派生的な形質に裏打ちされていることを明らかにすることが研究課題となる。
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