ここ数年にわたって研究してきたコブコケムシ類の系統分類に一応の結論を出すことができた。結果は以下のとおりである。 本年度はまずコブコケムシ類幼生の形質分析を行い、以下六つの形質を抽出した。それらは(1)繊毛環、(2)外套上皮、(3)口極上皮、(4)内嚢、(5)梨状器官、(6)間充織、である。これらのうち、外套上皮、口極上皮、および内嚢において、北海道産7種のコブコケムシの間で形態変化の方向性を調べた。Celleporina属とPseudolcelleporina層の比較では上記の3形質において明らかに方向性が認められ、Pseudocelleporina属は派生的グル-プであると結論できた。ところが、Celleporina属内の種間では各形質がそれぞれ異った系列的変化を示した。そこで、どの形質の系列変化が真の系統を表しているのかを判断するため、外群比較法を用いた。コブコケムシ類に最も近縁なグル-プは何か残念ながら特定されていないので、近縁と思われる三つの属、Cellpora、Galeopsis、およびLageniparaを外群とみなしてそれぞれ分岐分析を行った。その結果得られた三つの分岐図はたがいに全く整合しなかった。三つの分岐図のうちのどれが真の系統図を内含しているのか、今回の研究では結論は得られない。なぜなら3属のうちどれが真の外群であるか、依然として決定できないからである。 結局、今回の研究によって幼生の形質分析は成就したが、7種のコブコケムシ間の分岐図さらには系統図を書くまでには至らなかった。分岐分類においては、形質変化の方向性を決めることなしにはその後の操作は進まない。その方向性を決めるための唯一の論理的方法である外群比較法が今回使えなかったことは、実施面における分岐分類の大きな困難をはからずも露呈することとなった。分岐分類学は決して理想的な分類学の方法ではないことをあらためて認識した。
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