本研究は研究代表者により初めて報告された、高プロラクチン血症を示すマウスには膵臓の過形成が多発するという事実を基にして、プロラクチンの膵臓機能に対する作用を解明することを目的とした。 材料としてはSHN系マウスとBALB/C系マウスを用いた。50日齢の雌雄マウスに、同腹個体の下垂体を1個膵臓内に異性移植した。対照群には下垂体と同じ大きさに切り出した顎下腺を移植したものを用いた。これら両群を3カ月、5カ月、12カ月後に屠殺し、膵臓重量、肝臓重量を測定し、さらに血液を採取して後に血糖値、インスリン値、グルカゴン値などを測定した。結果は下垂体を移植され高プロラクチン血症を示すマウスが、対照群に比べて膵臓、肝臓重量とも重いことが明らかになった。また、インスリン値も実験群が正常対照に比べて高く、しかも血糖値も高いことが明らかになった。しかし、グルカゴン値については差がみられなかった。 妊娠後期の婦人では血中プロラクチン値の上昇と、インスリン値の上昇時期が一致するところから、両ホルモンの緊密な関係は知られていた。最近になって、インスリンが子宮内膜の間質細胞のプロラクチン合成、分秘を促進すること、逆にプロラクチンが膵臓のランゲルハンス島β細胞から、インスリン分秘を促進することも明らかになった。一方、本研究代表者により高プロラクチン血症が、膵臓の過形成を引き起すこと、さらに血糖値の上昇、インスリン分秘の促進、肝臓の過形成などの原因となることを明らかにした。本来インスリンは血糖値を下げる働きがあることから、プロラクチンはインスリン分秘を促進し、これとは別の機構で血糖値を上昇させるものと考えられる。今後、より簡単な系でインスリンとプロラクチンの関係を調べるため、膵臓の培養を開始した。
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