1.雄マウスの性誘引物質 正常雄の尿中に存在するアンドロゲン依存性物質のうち、dehydro-exo-brevicominの雌誘引効果の立体特異性について、詳細に解析した結果、両光学異性体が共存するときのみ効果があることが確認された。このような例は、昆虫のフェロモンでも例外的にみられるだけであり、興味深い。特に、哺乳類では信号物質の立体特異性についてはまったく研究が行われていないといってよく、今回の成果は今後の哺乳類の嗅覚コミュニケーションの研究に大きな影響を与える可能性がある。この研究結果は、本年夏の国際行動学会議(オランダ)で発表するほか、論文としても早急に投稿するべく準備中である。なお、雌誘引における尿中物質と包皮腺分泌物の相互関係については、昨年論文として公表したが、現在もさらに解析を続行中である。 2.雌マウスの尿マーキング行動の解析 雌マウスは正常雄の尿のにおいに反応して、その近くに多く排尿する。この反応が、雄に対する積極的な誘いの行動として機能しているか否かを解析した。その結果、雌の尿マーキング行動には、性的な動機付け以外に、新奇刺激への探索の動機付けも含まれていて、前者のみを研究するための指標としては、必ずしも適切なものではないことが明らかとなった。この成果についても現在投稿準備中である(要旨は昨年の動物学会で発表した)。 3.その他の研究 マウスの育児行動、特に雄親の関与について実験的解析を行っている。また、子マウスの発育に伴うハドリング行動に推移についても興味あるデータを得つつある。野生齧歯類については、ヤマネ、ヒメネズミ、ハツカネズミを研究材料にできるめどがついた。
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