研究概要 |
損傷後の機能回復に関する行動学的研究(初年度実施)により、神経回路の再編成と機能回復との関連を示唆する結果を得た(Ichikawa.1989)。これは今後の臨床的応用にもおおいに役立つ結果である。一方、回復をより迅速にするため、神経細胞の移植法を試みた(2及び3年度実施)。移植された神経細胞が長く(数カ月)生存することは確認できたが、新しく神経回路を形成するか否かについては明らかにできなかった。これは、形態学的に、神経細胞の突起を標識する適当な方法がない理由による。そこで、遺伝子工学を利用した移植神経細胞の開発を計画している。神経細胞の移植にともなう神経回路形成の研究には、この結果をまたなければならない。一方、神経の可塑性に関係する因子として、発ガン遺伝子や神経ペプチド二注目して、これらの発生過程に置ける発現についての基礎研究を行なった(2及び3年度実施)。発がん遺伝子のうちcーsrc遺伝子は、神経細胞の発達期に発現して、成熟後は、ほとんど発現しないことが明らかになった。この分野は今後おおいに進展するとおもわれるので、継続して研究をしている。また、本研究を遂行する過程で、神経回路の可塑性について生体で実験をおこなうとの不便さを痛感した。そこで、最近、培養法を利用して生体外で神経回路を形成させ、その可塑性を調べる研究を開始した(市川ほか(1990),Ichikawa et al(1990))。 培養法での神経回路の可塑性の研究により、実験動物を利用して生体内で行なうことが不可能な実験を可能にすることができる、今後、この分野の研究をおおいに進めることができること推測する。 神経の可塑性は、記憶とか学習といった脳の高次機能の基礎的な現象と言われている。したがって、今後は、これらの脳の高次機能との関連をふまえ、神経回路の可塑性の研究をおこなう計画である。
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