研究概要 |
本年度は最終年度であるので、これまでの研究を纒める方向で作業を進めた.大巾な予算の節減のため実行不可能になった大型岩石試験機によるシミュレ-ションに代えて、小形の既存の試料整形器の加圧装置と小型電気炉との組合せで小規模な昇温変形実験を試行した.これは未完であるが,有機物(石炭)試料フォ-ルダ-に細工をほどこすことで今後の研究に発展可能な基礎資料を準備することができた.かねてから視点を変えて,地質野外現象が、自然を実験室にした巨大な実験結果であると観ることで、大型試験が行えなかった経過を補うことにした.この場合の試験計画のプログラムは,天然現象における構造地質史に相当するから,実験における条件の差異は,構造発達史の差異に読替えられる.そこで,九州で特異な二つの構造体での有機変成パタ-ンを比較することを試行した.一つは外帯付加体の四万十帯で、他は臼杵八代線を挾んだ中軸帯である.それらの中〜新生界中の分散形石炭化植物片のヴィトリナイト反射率とその異方性の方向性を調査して,両者間に顕著な差を見出した.すなわち,付加体では,フィリッピン海プレ-トの沈込みの方向に相当する最大圧縮応力方向に光学的異方性の極小値が頻出する傾向が見出せた.これに反し、臼杵八代線に接する中軸帯では、光学的異方性は一定方向でなく,著しく歪んでおり、変形応力が横ずれを伴う再度の被熱下の変形で進行したことが示唆された.この調査で、ヴィトリナイトの光学的異方性に構造変形情報が記録され得ることの確証を得た.室内大型試験機による温度・圧力制御下の実験は行えなかったが、天然での構造変形史の異なる対象を選ぶことにより、ヴィトリナイトの光学的異方性から構造変形解析に資することのできる情報が得られる見通しが立った。
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