本年度は特に奄美大島(和野層)と沖縄本島の始新統について、堆積相解析ならびに変形構造の解析を行った。 和野層は土石流とタ-ビダイトの堆積物からなり、その堆積環境は、下位より(1)下部層(下部斜面)(2)中部層(上部扇状地)および(3)上部層(中部扇状地)に比較できることが明らかになった。中部扇状地は、チャネル性ロ-ブの発達により特徴づけられ、北向きの軸流運搬による嘉陽層は平行葉埋の発達したタ-ビダイトを主とし、含礫砂岩を挟在し、幾つかの上方薄層化サイクルを示すが、体積相は極めて均質である。密度流中で掃流堆積が卓越すること、古流向は北東向きが卓越することなどから、大規模なチャネルのテラスに比較できる。 琉球の始新統は上部白亜系の基盤をもつ。また、変形構造の解析からは3〜4の変形時階が認められた。これらには付加変形は含まれず、両累層の示す複向斜構造は、沈み込み付加の造構作用のうち、直接的な付加作用を示すものではないことが明らかになった。日向層群との比較では、剪断褶曲の系列をもつこと、より強い短縮作用を受けたことが示される。 琉球の始新流は、前弧海盆の堆積物に比較でき、その下底には古期の付加体をもつことから、消費型前弧とみなすことができる。このことは、同時代の付加プリズム上に形成された前弧海盆堆積物をもつ日向層群と本質的に異なる特徴と言える。すなわち、フィリピン海プレ-トの沈み込みは、琉球弧中部で斜め沈み込み(すなわち、海溝侵食タイプ)、北部の九州付近で直交型の沈み込み境界をもっていたことが示唆される。
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