研究概要 |
四万十帯は過去の島弧付加体として世界でも代表的な例の一つとされており、弱変形した砕層岩層とスラストで接する著しく剪断されたタ-ビダイト層や緑色岩一遠群性堆積物で特徴づけられる。試料は四万十帯のEOCENEのメランジュ・ユニットとされる日向層群の荒谷層から採取した。下位から枕状溶岩、アンバ-、赤色貝岩、緑色貝岩、黒色貝岩が野外調査では一連整合に重なっている。この連続露頭から16個の岩石を分析し、その結果次の成果を得た。(1)枕状溶岩のRbの値は1.1ppmと非常に少なくMORB(MidOceanic Ridge Basalt)の平均値と一致する。蛍光X線分析による徴量元素分析値もMORBであることを支持する。しかし87Sr/86Sr比は平均0.70876と高く、玄武岩マグマと海水が反応したことを示唆する。枕状玄武岩のすき間を埋めている石灰岩の87Sr/86Sr比は0.70805で当時の海水の値を示している。(2)アンバ-、赤色頁岩の87Sr/86Sr比は枕状玄武岩から離れるにつれ連続的に高くなる。ななわち枕状玄武岩と赤色頁岩(玄武岩から2m以上離れた元の組成のもの)を二つのエンドメンバ-としてこれらのMixingによってすべてのアンバ-,赤色頁岩の系統的なSr同位体組成の変化は説明できる。(3)赤色頁岩、黒色頁岩の87Sr/86Sr比はそれぞれ0.7183〜0.7255,0.7134〜0.7181と当時の海水の値0.708よりもはるから高く、これによって従来の遠洋性堆積物の起源は海水中で自生した粘土鉱物であるとの考えは否定される。我々は先に日本海溝でのドリル・コアであるLeg56のSite435のRb-Sr同位体組成の分析によって遠洋性堆積物は中国東北部から偏西風に乗って運ばれたレスであるとの考えを示した。その同位体組成は今回の分析結果とも調和的である。よって過去の付加体である四万十帯の遠洋堆積物も古い大陸地殻からの風成堆積物であると結論した。
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