研究概要 |
この研究では、現在の日本列島ではほとんどみられない岸に平行な細長い島のつらなりからなるバリア-島が、12〜13万年前の下末吉期とよばれる高海面期の古東京湾に存在したことを明らかにし、バリア-島の堆積相モデルをつくった。バリア-島は北海沿岸やアメリカ合衆国の大西洋やメキシコ湾沿岸等で普通にみられ、主に砂から構成されるため地層では石油の貯留層の役目をすることから重要視されている。バリア-島の研究は現世を対象としたものが多く、堆積相のモデル化は古東京湾の場合、陸上で直接観察できることが可能となった。 茨城県から千葉県の鹿島灘から九十九里浜沿岸の常総台地を構成する更新世の地層に,バリア-島の堆積物が残されていることは、(1)潮汐三角州堆積物が認められる、(2)南北に伸びた細長い地帯から、海退が東と西の方向にそれぞれ進行したことからわかる。高さ7〜8mで緩く西に傾いた大きなフォ-セット構造が認められる。この地層の下位には内湾の泥底堆積物が、上位には潮汐低地や潮流口の堆積物がみられること、これらには河川の影響が認められないことから、この大規模な構造は潮汐三角州の前置層であるといえる。さらに詳細な調査からバリア-島と潮汐三角州の堆積相モデルを組み立てることに成功した。 また、潮汐三角州の堆積物を直接覆って、生物擾乱が認められず、しかも大規模な斜交層理が発達する地層がみられる。この地層には急激に堆積したことを示す特異な構造が認められ、バリ-を越えた大波によって潮汐三角州にもたらされたウオッシュオ-バ堆積物と考えられる。すなわち、潮汐三角州は大波堆積物による潮流口の埋積で終焉をむかえることが分かった。さらに、ウォッシュオ-バ-堆積物には、堆積時に著しい断層や褶曲や液状化などの変形構造が発達したと考えられるものが含まれることから、地震津波の堆積物も含まれていたと思われる。
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