研究概要 |
本年度の研究では,北海道で採取した古第三紀のカシドゥリナ科底生有孔虫を中心として,層位的分布を検討した。また,Ocean Drilling Programの121次航海で得た東インド洋ブロ-クン海嶺の漸新世から現世にかけての試料についても検討を加えた。 本邦の古第三紀のカシドゥリナ科には3属4種が認められたが、この種構成は新第三紀中新世以降に認められる9属42種と比べると極めて少ない。しかも、3属4種のうち1種、Globocassidulina globosaによってカシドゥリナ科が代表されていることが明らかとなった。従って,古第三紀始新世では1群集化石帯を設定するに留まっている。 東インド洋のブロ-クン海嶺でも、斬新世から前期中新世まで極めて種構成の貧弱なカシドゥリナ科しか認めることができなかったが、前述のG.globosaは連続的な産状を示している。また、東インド洋の深海のカシドゥリナ有孔虫も中期中新世以降にその種数が急増しており、日本列島で認められた現象と似ている。一方、種数ばかりでなく,殻のサイズに注目したところ、中期中新世以降大型化する傾向が認められる。とくに、G.globosaは殻の大型化と口孔の形態変化によって、後期中新世以降普遍的に分布するG.subglobosaへと進化している。この様子は酸素の同位体変化、すなわちSO_<18>濃度の増加傾向と調和している。このことは、海洋の底層水の寒冷化を示しており、カシドゥリナ科有孔虫の進化の要因として温度の低下は重要な環境因子として注目される。併せて、海洋循環の増強は,湧昇流による沿岸域での環境変化ばかりでなく、深海域でも同様に環境変化を起させる要因となっており、カシドゥリナ科有孔虫の変化からも古海洋の変化の様子を考察することができた。
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