小型底生有孔虫の古環境解析への適用は、古海洋学的な課題と関連して専門誌においても質・量ともに大きな位置を占めている。このような古環境の解析は専ら群集的立場に基づいた議論がされているのが普通である。しかし、この場合、種の定義を広く解釈してあることが多く、その生態的及び古生態的情報の適用には限界を感じることがしばしばあった。カシドウリナ科の有孔虫は、底生有孔虫群のなかでも大きな分類群を構成しており、しかも汎世界的な分布をなしていることが知られている。したがって、分類学的に確固としたものである限り、この分類群から得られる情報は有孔虫群全体を考慮するより少なくて、しかも問題点を終りやすいと考えられる。 本邦におけるこのカシドウリナ科底生有孔虫は、鮮新世から現世にかけて多数のタクサが報告され、それらの古地理的分布や古生態に関する情報はかなり豊富になっている。しかし、古第三紀〜中新世では、これまでわずかしか記録・報告されていなかったため、鮮新世以降のタクサとの系統関係に不明な点が多かった。本研究では、種の外部形態ばかりでなく殻の微細構造と現世における生態との関係、さらに種の地理的・層位的分布を基に、日本の古第三紀に3属4種、そして新第三紀に9属42種を認めた。日本列島におけるカシドウリナ科有孔虫は、とくに中新世において大きな変化が認められ、この時期に種の絶滅と出現が特徴的に起っている。この進化劇は地球的規模で起った海洋環境の変化、すなわち南極氷床の拡大に伴った海洋底層水温の低下、海洋循環の増強と湧昇流・生物生産の増大といった現象と極めてよく調和している。また、種の出現・絶滅をもとに、古第三紀に1化石帯、古第三紀に1化石帯、新第三紀に5化紀に5化石帯を設定した。
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