研究概要 |
交付内定後、直ちに玄海灘沿岸の福岡県津屋崎、有明海沿岸の福岡県柳川・熊本県荒尾・宇土の4地点の大規模干潟及び潮下帯において生貝及び遺骸の累帯配列の調査を開始した。とくに調査条件の良い福岡県津屋崎、有明海沿岸の熊本県荒尾の干潟を選び、設定した海岸線に直交する調査線に沿って試料採集を繰り返し行い、初年度の調査を終了した。予想を上回る大量の標本が得られ、現在各干潟のデーターを整理しつつある段階である。これらの集積を待たないと詳細な新知見が得られるとは考えにくいが、現在までの知見として、各干潟の底質中には大量の貝類遺骸が含まれ、いずれも生物個体群の分布中心を含む広い面積に分布していて、一見、生物個体群の累帯分布と無関係に分布していること、しかし、これらの優占種の遺骸個体集団の群集解析を行い、殻サイズ頻度分布形、左右両殻共存率(Cv)値、殻破壞率(Fr)値の観点からみてみると、それらの値や形の変化は累帯変化を示し、生物個体群の累帯配列と調和的であることが判った。このことから遺骸個体集団の形成と特性の維持には、遺骸生産・供給母胎である生物個体群が大きな役割を果たしていることが再確認された。一方、各干潟内では潮流による遺骸の拡散・移動-波浪による打ち上げも顕著であり、岸から1,000m以内の各地点では遺骸の2次的移動と再構成が認められ、各遺骸個体集団は運搬集積団の傾向を示す。1,000m付近は生貝分布の周辺部でもあることから混合集団を形成している。浜辺に打ち上げられた貝殻の集団はむろん異地性であり、Fr値の低下と殻サイズ頻度分布形における運搬傾向が顕著である。しかし、生物個体群分布中心地の正面の海岸ではCv値はたかく、貝の死後の速やかな移動と多くの貝が合弁のまま打ち上げられた状況を示唆している。
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