九州各地の内湾・千潟の底質中には大量の貝類遺骸が含まれ、いずれも生物個体群の分布中心を含む広い面積に分布していた。これらは一見、生物個体群の累帯分布と無関係に分布している。しかし、これらの遺骸個体集団の群集解析を行い、殻サイズ頻度分布形、左右両殻共存率、殻破壊率からみると、それらの値や形の変化は累帯変化を示し、生物個体群の累帯配列と調和的である。このことから遺骸個体集団の形成と特性の維持には、遺骸生産・供給母胎である生物個体群が大きな役割を果たしていることが再認識された。博多湾では生体群集と遺骸集団が統計的に比較され、湾内に現在の生物群集の遺骸集団に対する寄与率が部分的に低い場所があることが確認された。そこでは最近の生物群集の遺骸生物産による遺骸集団の変更がまだ充分な効果をあげていない。夏季貧酸素水塊の出現は個体群における通常の継続的な死亡を断続的な死亡に変え、特徴のある殻サイズ頻度分布形を作り上げた。しかし、生貝の大量死亡にもかかわらず、多くの個体群では遺骸生産のサイクルは比較的安定している。博多湾の軟体動物遺骸集団は長期間生産維持された時間平均的集団である。有明海中部海域では、潮間帯/上部浅海帯の遺骸集団分布帯の境界部付近の混合集団を材料として、Cv-Fr図による現地性程度の議論がおこなわれ、タホノミ-過程のI系列とII系列の3系統の初期情報変化系列がみとめられた。I系列は通常の変化であるが、II系列は特殊な変化である。II系列でまCv値を低下させない運搬機構として、a)渚付近では「貝殻のパラシュ-ト漂流」と呼ぶ現象と、b)移行帯南下のShelf部分では、懸濁水を運搬媒体とする密度流による潮間帯から浅海帯への貝殻の急速運搬の2つが想定された。後者はこの水域の混合集団をつくる大きな要因であることが判明した。今回の研究で使われた手法は化石集団の現地性程度の解析に応用が可能である。
|