最近の古地磁気学的研究により、西南日本は右回りに、東北日本は左回りに観音開きに回転することにより、湖沼が形成され、やがて海水が侵入し、日本海が形成されたことが示された。本研究は、日本海が湖沼や浅海であった時期に形成された非海成・海成珪藻質堆積物中の珪藻種組成を記載し、日本海形成史における古湖沼・海洋像復元のための基礎情報を提供するために行った。特に、SEMを用いた観察により、Aulacosira属とActinocyclus属の種・変種を“form"に細分し、それらの地理的・層位的分布を明らかにした。1.珪藻質堆積物20試料よりAulacosira spp.25“form"(A-U、X)とActinocyclus sp.A3“form"(A、B、C)を同定した。2.大和堆北東斜面から採取されたコアRC12ー394:Aulacosira spp.各“form"の産出量から3群集(Aを主とする下位から中位の群集、Cを多産する上位の群集、そしてEが優占する最上位の群集)を識別した。3.渡島半島、虻羅、いわゆる太櫓層:Aulacosira spp.“form"Bの優占で特徴づけられる。4.佐渡島、関、真更川層:主としてAulacosira spp.“form"Iからなる。5.能登半島、能登中島、山戸田泥岩層:Bを優占するフロ-ラが認められた。また、Actinocyclus sp.A“form"Cも産した。なお、最上部には海生種の産出報告がある。6.福井、出村と引目、糸生層:再結晶作用を受けたAulacosira sp.(“form"X)がわずかに産した。7.隠岐島後、野越、油井層:Aulacosira spp.の数“form"(B、H、他)とActinocyclus sp.A(C)がわずかに産した。以上の結果から次の結論が導かれた。1.関の珪藻フロ-ラは淡水種のみから構成され、寒冷な湖沼像を示唆する。2.“太櫓層"と山戸田泥岩層は似た珪藻種組成をもつ。後者の最上部で認められる海生種の混合は、日本海への暖流の最初の侵入を示す。3.RC12-394の3群集は陸上のセクションでは認められなかった。今後の検討を要する。
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