本年度は主としてプラズマ発光分光分析法によって、東北日本那須火山帯の火山のうち、低アルカリソレアイト、カルク・アルカリ両系列の共存する火山(秋田駒ヶ岳・船形・蔵王・安達太良・那須・高原の6火山)の代表的試料に関し、希土類元素(REE)及び微量元素を定量し、特に、(1)同一火山、同系列の火山岩のREEパターンの類似性および(2)共存する二系列の岩石はREEパターンで識別可能か否か、に着目し検討を行った。なぜなら那須帯に共存する両系列岩のREE組成に関する従来の研究では、(1)那須帯に産する火山岩のREE組成を各系列毎に平均すると、ソレアイト系列の玄武岩に比べカルク・アルカリ系列の安山岩は若干軽希土に富む傾向が認められるものの、(2)同一火山に共存する両系列の火山岩は互いによく似たREEパターンを示す事が指摘されており、これは、K_2Oのレベルと軽希土の濃集度とに相関が認められるという、島孤火山岩に見られる一般的傾向と整合的でないからである。 結果として、次の三点が明らかとなった。(1)同一火山、同系列の火山岩のREEパターンは極めて良く似ている。(2)いずれの火山においてもカルク・アルカリ系列岩は共存するソレアイト系列岩よりも明らかに軽希土に富む。(3)ソレアイト系列岩は島孤型ソレアイト系列に特徴的な、ほぼフラットなREEパターンを示すが、細かく見ると各火山毎分析誤差を越えた個性を持っており、この個性は同一火山内のソレアイト系列岩に共有される。結果(1)、(2)は両マグマが各々独立した進化プロセスを辿ったとする考えを支持する。また(3)は、本研究の主課題である、火山フロント下の上部マントルの不均質性が初生マグマの化学組成に反映されている事を強く示唆している。後者はN-MORBマントルで規格化した液相濃集元素の濃集パターンにおいても支持される事も明らかになってきた。
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