前年度に明らかにした、東北日本弧火山フロント沿いの各火山毎の希土類元素組成、微量元素組成上の特徴を踏まえ、本年度は当該地域の島弧型ソレアイトマグマとカルク・アルカリマグマの成因関係についての包括的な解釈を加えることを課題に研究を行った。具体的には安達太良火山をその一典型としてとらえ、既公表・未公表の豊富な岩石学的デ-タを基に考察を行った。その際、当然ながら、得られた解釈、見解が他の火山の地球化学的デ-タとも矛盾しない様、留意した。結果は次のようにまとめられる。 1.ソレアイトマグマの進化は、岩石中に斑晶鉱物としてみとめられる、斜長石、シソ輝石、普通輝石、磁鉄鉱および若干のカンラン石の分別結晶作用を主要なメカニズムとしている。一方、カルクアルカリマグマの主要な進化メカニズムも分別結晶作用であるが、塩基性の未分化マグマの間欠的混入や、軽希土(やLIL元素)を選択的に残液に濃集させるメカニズムがそれと同時に作用している。 2.ソレアイト、カルクアルカリ両マグマ系列は共通の本源マグマからは導き得ず、カルクアルカリ本源マグマはソレアイト質のそれと較べ、SiO_2やインコンパティブル元素に富み、高いRb/Ba、Zr/Nb、軽希土/重希土比(及び低いSr同位体比)を持ち、かつまた、恐らくより酸化的であった事を示している。両本源マグマ間の軽希土/重希土比の違いは、部分溶融度の違いを想定すれば共通の源物質からの部分融解モデルで説明可能なものであるが、Rb/Ba、Zr/Nb及びSr同位体比の差はこのモデルでは説明できない。即ち、カルクアルカリ本源マグマにおける高Rb/Ba、Zr/Nb比及び低Sr同位体比は、マントル起源の初生カルク・アルカリ質マグマへの、角閃岩質の下部地殻由来のメルトの混入を反映している可能性が高い。
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