新第三紀中新世の塩基性火山活動の具体例として足尾山地南東縁地域をとりあげて、野外の分布状況、鏡下での岩石学的特徴、総化学組成、微量元素組成を決定した。足尾山地南東縁地域には中・古生層の堆積岩類を基盤として、幅約3km、南北約30kmの帯状に中新世の溶岩、ハイアロクラスタイト、自破砕溶岩が分布し、その分布量はこの順に多い。岩質はカンラン石玄武岩、普通輝石カンラン石玄武岩、カンラン石普通輝石玄武岩、輝石安山岩、及び角内石安山岩で、一般に足尾山地よりでマフィックの岩質となっている。カンラン石玄武岩はカンラン石斑晶が10vol.%と比較的アフィリックであるが、輝石玄武岩では斑晶含量60%と斑晶質である。輝石安山岩では斑晶含量65%(そのうち斜長石斑晶が30%)と斑晶質のものと、斑晶含量が10%とラフィリックのものがある。総化学組成は湿式法とXRF法とにより決定したが、その組成範囲はSiO_2含量が50〜58wt%で、MgOが10〜2%、アルカリ含量が2〜6.5%である。カンラン石玄武岩のみがノルムでカンラン石を含み、他はすべてノルム石英を含む、微量元素は放射化分析法いより定量した。微量元素組成をMORBの規格化パターンでみると、LILEに富み、HFSEに不足する傾向がみられ、カンラン石玄武岩、輝石玄武岩、輝石安山岩につれて全体的にエンリッチ化の傾向がみられる。同様な岩質をもつ霊山地域のそれと比較すると、足尾山地下山岩で未分化なものでややMgOに乏しい傾向がある。微量元素組成ではCiO_2の増加とともにNiやCrの急激な減少とRbやCeの増加など同様の傾向もみられるが、Srでの正異常の程度が低め、NbやZrで免異常の程度がやや低めなどの差異がみられる。これらの岩石学的特徴から、足尾山地南東縁地域の火山岩類を形成したマグマは霊山地域のそれとはやや異なった場にあったと推定される。
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