隠岐変成岩の複変成作用について、現地調査と室内実験の両面から研究を行った。それにより得られたデ-タを基に総合的に検討した結果、隠岐変成帯の構造発達史が以下のように明らかとなった。 1.源岩の形成は約20億年前に行われ、泥質堆積岩と玄武岩質凝灰岩を主体として、若干の砂質堆積岩と石灰質堆積岩を伴っている。泥質堆積岩を供給した後背地の岩石の年代は22〜23億年前と考えられる。 以上のような原生代初期の年代を示す地質体は日本列島の他地域に例がなく、隠岐変成帯は中朝古陸の先長城系に対比されるべきものと考える。源岩の堆積以後、隠岐帯は二度に亘る顕著な変成作用を蒙った。 2.古朝広域変成作用:変成作用はいまだ明らかではないが、おそらく原生代の間と考えられる。変成鉱物の共生関係と化学組成から推定される変成作用の温度-圧力条件は、700℃以上、5kb以上(グラニュライト相)と見積もられる。また、この時期に広汎なミグマタイト化作用が起こっている。 3.新期広域変成作用:約2億年前の出来事であって、現在変成岩中に認められる線構造の卓越方位(北部地域で北北西-南南東、南部地域で東-西)のほとんどがこの時期に形成された。推定される変成岩作用の温度-圧力条件は、550〜650℃、2〜4kb(上部角閃岩相)と見積もられる。 4.隠岐変成帯はその後、圧砕作用と花崗岩の貫入を受けつつ上昇し、日本海の拡大へと地史が進展していくことになる。 5.インド洋の拡大によって分離された原生代の地塊として、セイシェル諸島とアフリカ大陸との地質学的関係も巨視的には本研究と関連しており、これについても若干の考察を行った。
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