本研究においてMgO-SiO_2-H_2O系に存在するPhase Bの安定領域とこの系の未知の含水相の存在の可能性を実験的に明らかにした。その結果以下のことが明らかになった。20GPa付近では、PhaseBは、約1500℃付近で分解溶融し、スピネル+ペリクレ-ス+液になる。さらに温度の上昇にともなって、ペリクレ-ス+変型スピネル+液、そしてペリクレ-ス+液のような溶融関係を示す。1500℃以下の温度では、PhaseBは22GPaでスピネル+ペリクレ-ス+水に高圧分解する。また12GPa以下ではPhaseBは不安定であり、フォルステライト+H_2Oが共存する。14GPa付近では、1200℃以下ではPhaseBが安定であるが、これ以上の温度では新高圧相が存在する可能性がある。この新高圧相の化学組成はPhaseBよりMgOに富んでおり、PhaseBがこの新高圧相とSiO_2(スティショバイト)に分解している可能性もあるが詳細な相平衡の研究は今後の課題である。以上の実験結果から含水高圧相PhaseBの安定領域は、14GPaから22GPaまで、温度は1500℃以下であることが明らかになった。以上の実験結果にもとづくと、沈み込むプレ-トとともにマントル深部に持ち込まれた水は、マントル遷移層付近ではPhaseB中の結晶水として存在するが、プレ-トの沈み込みとともに遷移層の最下部でPhaseBが脱水分解し、遊離したH_2Oを生ずる可能性がある。また下部マントルから上昇するH_2Oを主体とする流体は、上部マントルの遷移層でPhaseB中に捉えられる。したがって、マントル深部でのH_2Oの加水反応や脱水反応は、H_2Oを主体とする流体中に溶け込んでいるインコンパチブル元素の下部マントルから上部マントルへの移動と濃集に大きな影響を持っている可能性がある。
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