霊長類の核型進化を明らかにするため、本細胞遺伝学ならびに分子遺伝学の手法を用いて研究を進めた。カニクイザル、リスザルの腎細胞を採取し培養後、マウスFM3A細胞(TS^-、HPRT^-)との細胞融合により雑種細胞を得た。また、霊長目と近縁のツパイについても同様に肺細胞を材料としてマウス細胞との雑種細胞を得た。どの種についてもHATO選択培地条件で効率良く雑種細胞が得られることがわかった。各種につき約100細胞クローンを凍結保存した。これらの細胞の一部を解凍し、染色体構成の分析を行ってクローン・パネルを作製した。これに従い、TS、APRTTK遺伝子座位を担う染色体を特定した。なお、カニクイザルのHPRT遺伝子座のあるX染色体は、サイズの上でもバンド・パターンの上でもヒトX染色体と近似していることが明らかになった。ツパイについては、雑種細胞の一部を通常培地中にてしばらく培養した後、再び選択培地で培養したところ、増殖しないクローンが生じたので核型を調べたところ、X染色体長腕部の欠失が生じていることがわかった。これは培養中に起ったX染色体の一部欠失によるものだが、これにより、高等霊長類と同様ツパイでもHPRT遺伝子座がX染色体長腕末端部に存在することが推定される。ツパイのX染色体も高等霊長類のX染色体と同様のバンド・パターンを示すことから、この染色体の進化上の保存性が明らかとなった。今後、リスザルについて更に詳細にクローン・パネルの分析を進めるとともに、ヒト遺伝子プローブを用いた比較遺伝子地図の作成を行う予定である。
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