トラフグ属の天然雑種の出現状況を調べるため、日本海沿岸と北九州の魚市場で聞込み調査を行った。その結果、マフグとトラフグあるいはマフグとカラスの雑種と思われるフグが日本海に分布することが明らかになった。この雑種の標本数は少ないが、日本海に出漁している漁船から入手することができた。雑種は、体の色彩ではマフグに似ているが、体の表面を小棘が覆う点でトラフグとカラスに似ている。鰭条数はマフグよりもトラフグとカラスに近い。骨格系の特徴はトラフグやカラスよりもマフグに類似する。この雑種は下関の魚市場にかなりの頻度で出現するので、来年度は標本数をふやして詳細に調査する予定である。 九州からは体色から判断してトラフグとシマフグの雑種と考えられる標本と、ナシフグとシマフグの雑種と思われる標本を採集することができた。前者は東シナ海から、後者は有明海から採集された。標本数が非常に少ないので、現時点では、形態学的な形質の比較検討を充分に行うことはできない。しかし現地の情報によると追加標本を入手できる可能性は高いので、来年度に標本数をふやして形質の検討を進める予定である。 従来、稀種とされ、雑種の可能性もあるとされていたムシフグを日本海で5個体採集することができた。外部形態と骨格系を調査した結果、雑種ではなく独立種であることが確実となった。また、初夏にかなりの数のムシフグが、佐渡島周辺に出現するとの情報を得たので、来年度は標本数をふやして本種の特徴を詳しく調べる予定である。 トラフグ属の学名に関しては、これまで混乱が続いており、Fuguを用いる研究者とTakifuguを用いる研究者に分れていた。トラフグ属の学名の歴史と国際動物命名規約に関する問題点を調べたところTakifuguを用いるべきことが明らかになった。この結論は学名の混乱を一掃するため国立科学博物館の研究報告に発表する予定である。
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