我々の試料であるマンガン-ゼオライト-Yはゼオライト-Y中の交換性イオンであるNaイオンをS状態のMn^<2+>イオンと置換したものである。プラズマ発光分析などによるとゼオライト1g中に4〜5×10^<20>ヶのMnイオンがある。我々はこのMn-ゼオライトのMnイオンの磁気的性質を調べた。室温から4Kまでの静磁化率を、4Kから15mKまでの交流磁化率を測定した。その結果、約50mKまではキュリー-ワイス則で良く記述できる。キュリー定数は4.2×10^<-3>(emu・K/g)、ワイス温度は-0.03(K)で、反強磁性的なふるまいをする。室温から4KまでのESR測定を行った、Mn^<2+>イオンの信号は線巾600ガウス、g値2.01の単一吸収線である。信号は温度を下げるとわずかにひろがるが、g値は殆ど変化しない。室温EXAFSの結果からも、Mnイオンはかなり自由な状態にあると考えられる。上のキュリー定数とg値から、ゼオライト中のMnイオンがフリーであるとして、サンプル中のMnイオンの数を概算してみると6×10^<20>個がゼオライト1g中に存在する。これはプラズマ発光分析の結果とほゞ一致している。ゼオライトの密度からMnイオンの平均的な距離を求めると約15Aとなり、大まかにいってゼオライトのケイジ中に1個のMnイオンが入っている事になる。別の試料の交流磁化率を15mKまで測定した。20mK付近で磁化率が極大を示した。また、この付近でχ^<11>も増大している。反強磁性への転移がおこったと考えられる。Mnイオン間の相互作用を双極子-双極子相互作用とすると転移温度は約5mKとなって低くなりすぎる。酸素原子を仲立ちとした超交換相互作用モデルで説明できないかを現在、検討中である。試料の断熱消磁を試みた。初期温度1.3K、初期磁場3Tで行ったが、到達温度は磁化率によるMnイオンの温度では約60mK、試料につけた抵抗温度計では約140mKであった。
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