有機分子超薄膜の高度な秩序構造とその物性との相関を実験的に明らかにすることは、有機分子超薄膜のもつ特異な機能を用いて分子デバイスを開発するために不可欠であると考えられる。本研究では、超低エネルギー電子透過法を用いて有機分子超薄膜の分子配向性に関する知見を得、同時にその電子物性に関する研究を行うことを目的にしている。この目的のため、本年度は次の2点に関して実験を行った。(i)これまで使用してきた超低エネルギー電子透過装置の試料室の真空排気系を改良し、排気時間の短縮をはかることによる実質的な測定時間の短縮をはかる。(ii)アラキン酸Cd、トリステアリン、ポリジアセチレン等のLB膜、及び分子ファスナー半導体TTC_9-TTF蒸着膜を用い、その分子配向性と超低エネルギー電子透過構造との相関を調べ、次にその配向性と電子物性との関係を電子透過法により同時に研究する。 (i)の課題については、新たにUHVマニホールドを製作し、これと油拡散ポンプを用いることにより、上記試料室を約48時間で10^<-9>Torrの超高真空まで排気することを実現した。又、(ii)の課題については、膜厚、膜作成条件、測定温度をパラメータにして上記分子薄膜に対し電子透過実験を行い、これ等分子のアルキル鎖部及びその垂直配向性と電子透過構造との相関を得た。この結果を利用し、超高真空下で室温で蒸着されたTTC_9-TTF分子膜は、分子が基板に対し垂直に配向していないこと、さらに、このためTTF部に関する知見を得られることが判明した。又、この分子膜の電子透過スペクトルの温度変化を測定し、アルチル鎖部の振動が、TTF分子間相互作用に大きく影響を及ぼし巨大な伝導帯温度変化を引き起こしていること等を見いだした。
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