研究概要 |
低圧下におけるシランのフッ素気相酸化反応を利用する、Si薄膜の堆積に於いては、当初考えられたよりもはるかに低温下(>230℃)で、結晶質膜の堆積が可能であることが、作製条件を系統的に変えた実験により明かとなった。膜の結晶化条件は、堆積温度と堆積前駆体の形成に与るシランとフッ素の流量比に依存し、フッ素流量の増加にともない、結晶化温度は低下する傾向がみられた。堆積温度を結晶化が認められる温度よりさらに上昇させると、いずれの条件に於いても堆積膜のエッチングが観測され、気相過程のみならず、表面化学過程へフッ素の関与が示唆された。 フッ素によるシランの気相酸化反応にみられる化学発光のスペクトルの分析では、SiF、SiHからの発光が支配的で、フッ素流量の増加になともないSiFの発光強度は増加する傾向がみられるが、膜堆積可能な条件下では、発光スペクトル全体としては、大きな変化は、認められないことが分かった。質量分析による気相化学種の分析では、SiSiF,SiH[_<2]>F、SiHF[_<2]>などのラジカル種が観測され、シランに対するフッ素の流量が増加るするにつれて、より酸化の進んだラジカル種の割合が増加する傾向がみられた。 膜厚モニターを用いた表面過程の観測では、堆積膜厚の測定から求められる堆積速度についての結束をinsituでの測定から定性的ではあるが支持する結果が得られ、特にフッ素によるエッチングを含む表面過程への直接的な関与を裏付ける結果が得られた。 以上の結果から、本系に於けるSi薄膜の低温結晶化には、フッ素の直接的な表面化学過程への参与を考慮する必要があり、成長表面での、フッ素を仲立ちとしたSiネットワーク形成における化学平衡過程の形成が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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