我が国が1990年代後半に実用化を目指しているHOPE(宇宙往還機)が遭遇する最大の問題の一つは、大気圏突入時の空力加熱である。突入時の飛行マッハ数は高度70km以上で20以上になるので機体先端に形成される衝撃波の背後で、空気温度は非常に高くなる。(因に飛行マッハ数28に対する衝撃波背後の気体温度は、高度80kmでは28300Kとなる)。その結果、空気を構成している窒素分子と酸素分子の一部が解離し、完全気体とは異なる熱力学的に非平衡な化学反応を伴う流れ場が生み出されている。従って、従来の巨視的な完全気体の取扱いは最早成り立たず、(1)分子振動緩和の効果、(2)解離・再結合の効果、(3)壁面触媒性の効果、等を含めた解析が必要になってくる。本研究の初年度では上記の三つの効果を含めた流れ場の方程式を立て、鈍頭物体モデルに対して数値計算をおこなった。飛行条件として、高度90km、80km、70kmでのHOPEの大気圏突入条件を用い、表面熱流束すなわち空力加熱量が計算された。結果によれば、高度80km、および70kmでは、分子振動緩和が空力加熱量に及ぼす影響は無視できることが分った。しかし、表面触媒性の効果は大きく、非触媒性壁の場合に、空力加熱量最小になるので、今後開発される耐熱表面材としては、この非触媒性の性質をもつ材質が望ましい。一方、実験では、アーク加熱低密度風洞を用い、岐点熱流束の計測が行なわれ、さらに、二三の耐熱材候補に対して、熱電対による材質の温度測定をおこない、10数分後に得られる平衡温度がもとめられた。
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