構造材料として、高分子材料の使用頻度が増してきており、金属材料と同様に、破壊現象についての深い知識が必要となっている。しかし、高分子材の機械的性質が時間、温度および圧力の影響を強く受けるため、金属材料で蓄積された破壊に関する理解を、高分子材料に単純に当てはめることはできない。特に、き裂端に発生するクレイズは重要であり、この充分な理解なくして高分子材料の破壊を論ずることはできない。 本研究では、まず高分子材料の破壊現象の理解に最も重要な(1)き裂先端部に形成されるクレイズ領域を顕微鏡にて直接観察し、(2)同時にクレイズ及びき裂上下面反射した光の干渉によって生ずる縞模様より、き裂部の開閉口挙動を連続的に測定可能な装置を製作した。試験装置は、(1)き裂進展用小型繰り返し負荷装置、(2)き裂挙動の観察装置(顕微鏡およびモニター装置;本研究費で購入)及び(3)縞模様の解析装置からなっている。 続いて、透明高分子材料の代表としてPMMA(アクリル)板より作った両片持ち梁(DCB)試験片を用いて、試作した装置によって静的及び動的負荷のもとでのき裂挙動の観察を行い、(1)静的及び動的負荷条件下におけるき裂端のクレイズ形状とDagdale模型との比較、(2)き裂成長時におけるき裂端の開口変位等の破壊の基本事項についての多くのデータを蓄積した。さらに(3)方向によって性質の異なる異方性材についての実験をも行い、等方性材の結果と比較した。 さらにこれらの実験データを多く集めることによって、高分子材料のき裂進展に対して提案されているクリテリオンについて、その妥当性の考察が可能となる。
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