1.硬質炭素膜の表面ガス吸着状態、熱的構造緩和との関連で摩擦現象の究明するため、オイルフリー高真空系(ターボ分子ポンプ)、ヒーター内臓回転試料台、高純度ガス導入系及びガス圧測定系(ダイヤフラム真空計)を付加した低速すべり摩擦試験装置を製作した。 2.硬質炭素膜の熱的構造緩和(約120゜以上)に伴い、抵抗率及び熱電能がキャリア密度の増加で説明される変化を示し、結晶学的にはダングリングボンド密度の増加を示唆する。この知見は、アモルフェス構造へのガス吸着・吸蔵による膜特性変化をその場的に検知できる可能性を示し、本境界摩擦機構の解明にとって有用である。 3.所定ガスを吸着処理(高真空中、100℃、1h加熱-760Torrまでガス導入-室温まで冷却)した炭素膜間で、同一軌道上での一定インターバルの繰り返し摩擦作用及び表面温度上昇によるガス分子被覆率の変化を与え、動摩擦係数とガスの種類・吸着料との関連を検討した。その結果、(1)窒素及び酸素吸着では、ともに表面温度変化(室温〜100℃)に応じた摩擦係数の変化(0.3〜0.02)を示し、物理吸着状態と考えられる。しかし、酸素吸着では、繰り返し摩擦時に摩耗粉の生成と摩擦係数の増大が起こり易く、炭素間結合への促進効果が示唆される。(2)通常の大気中での摩擦特性は、上記の窒素あるいは酸素の飽和吸着時の摩擦係数及び脱離に伴うそれの低減率において相違し、水分子吸着の関与が大きいことを確認した。(3)水素吸着させた炭素膜は、繰り返し摩擦作用及び表面温度変化のいずれに対しても、又、摩耗粉排出の有無に関係なく、固体間摩擦としては極めて低い摩擦係数(0.01以下)を示した。この高い潤滑性態は、ダングリングボンドへの水素結合が膜の化学的安定性を寄与したためと推察される。今後、膜への安定的な吸着・吸蔵条件を見い出し、潤滑性保護膜効果を実証する必要がある。
|