前年度において、生産者側と消費者側がそれぞれ両者の危険の名目値からのズレにいだいている主観的な感覚をメンバ-シップ関数で表現し、両危険の実現値の均衡をとるとのファジィ理論を応用した新しい計数規準型抜取検査の設計法を提案した。ただ、提案設計法においては反復計算法が用いられており、設計手順が多少繁雑であった。そこで、本年度ではまず、Fisherの近似とBolshevの近似を活用することにより、反復計算法によらない簡易な設計法を確立した。また、信頼性試験でよく用いられる個数打切り計量規準型1回抜取検査に対するファジィ設計法も前年度に確立したが、本年度は個数打切りと同様によく利用される時間打切りによる信頼性試験を取りあげた。そのさい、これまでは生産者危険と消費者危険の名目値をファジィ数としてとらえ、両危険の実現値の均衡をはかることを指向してきたが、ここでは寿命特性の良否をファジィ集合で表現することを試みた。さらに、生産者危険と消費者危険について、従来は検査時での品質保証基準として解釈されていたのを、ベイズ流の定義を採用し、検査後の品質保証基準としてとらえることを併せ行った。このように、“良い"あるいは“悪い"という寿命特性の定義にファジィ理論を適用し、かつ生産者危険と消費者危険にベイズ流の定義を採用することにより、柔軟性の高い信頼性試験が可能となった。 以上、ファジィ理論の品質管理、とりわけ品質検査への応用については、十分所期の目的を達しえたものと考える。ただ、ファジィ理論の品質評価への応用については、寿命特性の良否をファジィ集合で表現するにとどまり、今後取り組むべき課題が残されている。とくに、消費者の欲求・満足度といった主観的立場から品質の概念をとらえ、それに基づき消費者行動と要求品質を分析することは、新しい消費者理論を展開するうえで、極めて興味ある課題であるといえる。
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